ウッチ 産業遺産とポーランド映画の都
ウッチ 産業遺産とポーランド映画の都
ウッチ――工場の記憶が、アートと映画に生まれ変わる街
赤レンガの工場群、映画人を育ててきた名門校、街角を彩る巨大なミューラル。ウッチは、一見ばらばらに見える魅力が、街の産業史を軸にひとつにつながる都市です。かつてポーランド随一の繊維産業都市として栄えたこの街は、いまでは「ポーランド映画の都」として知られ、現代アートとポストインダストリアル建築が共存する、個性豊かな旅先へと姿を変えました。
魅力は、過去を消して新しくしたことではありません。むしろ、古い工場や発電所、労働者住宅を残しながら、そこに文化、商業、ホテル、レストランといった新しい役割を与えてきたことにあります。ひとりで街歩きを楽しみたい人にも、家族で知的な体験をしたい人にも、発見の多い街です。
その都市再生は国際的にも評価されています。Lonely Planetの「Best in Travel 2019」ではBest Value Destinationsの世界2位に選ばれ、National Geographicの「Best of the World 2022」でも、産業跡地を生かした持続可能なまちづくりが注目されました。
工場跡が、街でいちばん面白い場所になる
ウッチらしさを最もよく表しているのが、かつての工場を街の新しい顔へと生まれ変わらせる大胆な発想です。
ウッチを訪れるなら、ぜひ立ち寄りたいのが、ポーランド政府観光局の「ゴールデン・サーティフィケート」を受賞したマヌファクトゥーラ(Drewnowska 58)です。かつて実業家イズラエル・ポズナンスキが築いた工場群を再生した広大な複合施設で、歴史ある赤レンガの建物に、レストランやms2美術館、ファクトリー博物館、映画館、劇場、ショッピングセンターなどが集まっています。中央の広々とした広場では屋外イベントも開催され、ショッピングから芸術鑑賞まで、思い思いの時間を楽しめます。
隣接する旧ポズナンスキ家の宮殿は、現在ウッチ市博物館(Ogrodowa 15)。華やかな室内装飾とともに、街の歴史、文化、産業遺産、そして急成長を遂げた時代をたどることができます。
もうひとつ外せないのが、クションジ・ムウィン(Księży Młyn)です。ウッチを代表する実業家カロル・シャイブレルが築いた、工場と住宅が一体となった大規模な地区が、まとまった姿で残されています。旧紡績工場はロフト住宅やオフィスへ、赤レンガの労働者住宅「ファムウィ(famuły)」は今も住居として使われています。周辺にはレストランやアトリエ、ギャラリーが点在し、ヘルプスト宮殿(Przędzalniana 72)では、工場主階級の邸宅文化を伝える室内展示も見学できます。19世紀の工業都市の空気を感じながら歩くなら、ここは格好の場所です。
フランチシェク・ラミシュの旧工場を活用したOFF Piotrkowska(Piotrkowska 138/140)や、ヨゼフ・ヨンの旧鉄鋳造所の工場群も、世界各国の料理、オルタナティブ・ファッション、デザイン、応用芸術が集まる拠点へと変貌しました。Ogrody Geyera(Piotrkowska 293/305)も、食事や散策、イベントを気軽に楽しめる開放的な空間として親しまれています。
産業建築は、泊まる場所にも生まれ変わっています。ポズナンスキ工場の旧紡績棟に入るVienna House by Wyndham Andel’s Łódź(Ogrodowa 17)は4つ星ホテルで、屋上のガラス張りプールから街を一望できます。旧ウッチたばこ工場を生かしたHotel Tobaco(Kopernika 64)は、工業建築と現代的デザインの組み合わせが印象的。Focus Hotel Łódź(Łąkowa 23/25)は、19世紀末のユリウシュ・キンデルマン旧綿工場を改修し、特徴的なファサードや高い天井、旧工場の階段などを残しながら、現代的なホテルとして再生されています。
旧発電所で、科学と映画とゲームに出会う
ウッチには、子どもから大人まで楽しめる学べるアトラクションも充実しています。
その中心が、旧火力発電所を再生したEC1 Łódź – Miasto Kultury(Targowa 1/3)です。発電所時代の設備や建築を生かしたEC1科学技術センターでは、エネルギー変換やミクロの世界をテーマにした体験型展示を楽しめます。EC1プラネタリウムは高度なデジタル投影設備を備え、国立映画文化センター(NCKF)では、マルチメディア展示を通してポーランド映画の歴史と制作の舞台裏を紹介。コミック&インタラクティブ・ナレーション・センターでは、コミックとゲーム文化の世界へ踏み込めます。『ウィッチャー』の原作者アンジェイ・サプコフスキがウッチ在住であることも、この街と現代ポップカルチャーをつなぐ興味深い一面です。作品はCD PROJEKT REDのゲームシリーズを通じて世界的に知られるようになりました。
Orientarium ZOO Łódź(Konstantynowska 8/10)は、東南アジアの動植物を中心に紹介する現代的な動物園。サメやエイが頭上を泳ぐ水中トンネルや、インドゾウの展示エリアが見どころです。
水遊びやリラックスを楽しみたいならAquapark Fala(al. Unii Lubelskiej 4)へ。波のプール、ウォータースライダー、サウナ、屋外プールなどを備える、ポーランド有数の大型ウォーターパークです。
「ポーランド映画の都」を歩く
ウッチは2017年から、ユネスコ創造都市ネットワークの「映画都市(City of Film)」に加盟しています。街と映画の関係は、単なる観光キャッチコピーではありません。
Targowa 61にある国立映画・テレビ・演劇大学、通称ウッチ映画大学は、アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキー、クシシュトフ・キェシロフスキ、イェジー・スコリモフスキら、世界的な監督や撮影監督を数多く輩出してきました。EC1内の国立映画文化センター(Targowa 1/3)では、ポーランド映画史と最新技術を結び付けた展示を通して、作品だけでなく「映画がどう作られるのか」まで知ることができます。カロル・シャイブレル宮殿に入る映画博物館(plac Zwycięstwa 1)では、ポーランドと世界の映画史を紹介しています。
街そのものも、数々の名作の舞台です。アンジェイ・ワイダ監督『約束の土地(Ziemia obiecana)』はウッチで多くの場面が撮影され、アカデミー外国語映画賞にノミネート。パヴェウ・パヴリコフスキ監督の『イーダ』も市内各所で撮影され、アカデミー外国語映画賞を受賞しました。同監督の『COLD WAR あの歌、2つの心』もウッチで多くの撮影が行われ、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞、アカデミー賞では監督賞・撮影賞・外国語映画賞の3部門にノミネートされています。
ピョトルコフスカ通りを歩けば、ポーランド映画界を代表する人々の名を刻んだ「ウッチ・ウォーク・オブ・フェーム(Aleja Gwiazd)」にも出会えます。
ピョトルコフスカ通り――歩けば、ウッチの今が見えてくる
ウッチの中心を貫くピョトルコフスカ通りは、全長約4.2km。中心部の一部は歩行者優先のプロムナードとして整備され、街歩きの主役になっています。
通り沿いには、19〜20世紀の建物が連なります。古典主義、歴史主義、折衷主義、アール・ヌーヴォー、モダニズム、そして現代建築まで、時代ごとの建築が一本の通りに重なっているのが面白いところです。
現在は、レストラン、カフェ、パブ、夏のテラス席が集まる社交と文化の中心。Light.Move.Festivalやウッチ市の記念行事、パレード、野外コンサートなど、大規模なイベントの舞台にもなります。
通りの南側にある中央繊維博物館(Piotrkowska 282)は、ルドヴィク・ガイヤーの「白い工場(Biała Fabryka)」を活用した博物館です。ウッチ最古級の大規模工場建築の中で、繊維産業都市としての歴史や芸術織物の重要なコレクションを紹介しています。敷地内のウッチ都市文化公園には木造建築が移築・保存され、かつての市民生活を身近に感じられます。
四つの文化がつくった街の記憶
19世紀のウッチの発展を支えたのは、ポーランド人、ドイツ人、ユダヤ人、ロシア人という「四つの文化」でした。それぞれの共同体が残した建築や歴史の痕跡は、今も街のアイデンティティの一部です。
マヌファクトゥーラの原型となる大工場を築いたイズラエル・ポズナンスキはユダヤ系実業家。一方、クションジ・ムウィンを築いたカロル・シャイブレルは、ライン地方出身のプロテスタント系実業家でした。
この多文化都市の歴史を深く知るなら、ユダヤ人墓地(Bracka 40、入口はZmienna通り側)へ。約40haに広がるポーランド最大、ヨーロッパでも最大級のユダヤ人墓地のひとつで、イズラエル・ポズナンスキの巨大な廟もあります。
第二次世界大戦期の記憶を伝える場所としては、ラデガスト駅記念館(Pamięci Ofiar Litzmannstadt Getto 12)や、生存者公園内のマレク・エーデルマン対話センター(Wojska Polskiego 83)があります。旧墓地(Stary Cmentarz、Ogrodowa 43)には、カトリック、プロテスタント、正教会の墓域が並び、シャイブレル家のネオゴシック様式の礼拝堂も見どころです。
壁と中庭が、街のギャラリーになる
ウッチでは、美術館に入らなくてもアートに出会えます。170棟以上の建物の壁面を大規模なミューラルが彩り、街そのものがポーランド最大の都市型屋外ギャラリーのような風景をつくっています。
Piotrkowska 182の高層住宅に描かれた巨大な『ウィッチャー』のミューラルは、街を代表する作品のひとつ。Sienkiewicza通りとTraugutta通りの角では、ブラジル人アーティストEduardo Kobraによる、ピアニストのアルトゥール・ルビンシュタインを描いた作品を見ることができます。
もうひとつの楽しみが、芸術的に再生された中庭です。ローズパサージュPasaż Róży(Piotrkowska 3)では、壁一面を割れた鏡のモザイクが覆い、光の角度によって表情を変えます。Więckowskiego 4では、ヴォイチェフ・シウドマクの世界を陶製パネルで表現した「Narodziny Dnia(『一日の誕生』)」を見学できます。Piotrkowska 118の中庭では、3基の大きなクリスタル製シャンデリアが夜のイルミネーションに浮かび上がり、昼とは違う幻想的な風景をつくります。
アクセス
ウッチはポーランド中部に位置し、国内各地からアクセスしやすい街です。ワルシャワからは南西方向へ、車でおおむね約1時間半〜2時間。鉄道ではウッチ・ファブリチナŁódź Fabryczna駅とウッチ・カリスカŁódź Kaliska駅が主要な玄関口となり、国内の主要都市と結ばれています。
長距離・国際バスも利用でき、主要な発着拠点のひとつはŁódź Fabryczna駅周辺。市の南西部にはウッチ・ヴワディスワフ・レイモント空港(Maczka 35)があり、空路でのアクセスにも利用できます。
旅行前に知っておきたい実用情報
観光の相談なら、ウッチ観光案内所(Piotrkowska 28/2U)が便利です。無料の地図や観光資料が手に入り、街歩きのプランについてスタッフに相談することもできます。公式のウッチ土産も購入できます。
このほか、Piłsudskiego 12の地域観光案内所や、Księży Młyn 12の観光案内拠点なども利用できます。
ウッチのイベント 2027
| イベント | 開催時期 | 公式サイト |
| 第15回 DOZマラソン・ウッチ | 2027年4月9~11日 | https://lodzmaraton.pl/ |
| Rossmann Run | 2027年(公式日程未発表) | https://biegpiotrkowska.pl/ |
| 第23回 Festiwal Dobrego Smaku(予定) | 2027年(公式日程未発表) | https://zjedz.my/festiwale/ |
| 第26回 Fotofestiwal | 2027年(詳細日程未発表) | https://fotofestiwal.com |
| 第11回 Ravekjavik(予定) | 2027年(公式日程未発表) | https://ravekjavik.pl/en/rvvk |
| Audioriver | 2027年(公式日程未発表) | https://www.audioriver.pl/ |
| 第5回 Łódź Summer Festival | 2027年7月23~25日 | https://www.lodzsummerfestival.pl/en/lodz-summer-festival/ |
| Parada Wolności | 2027年(公式日程未発表) | https://paradawolnosci.org/ |
| 第16回 Light.Move.Festival | 2027年(詳細日程未発表) | https://lmf.com.pl/en/ |
| 第38回 国際コミック&ゲーム・フェスティバル(予定) | 2027年(公式日程未発表) | https://komiksfestiwal.com/en/ |
| 多文化都市ウッチ Łódź Wielu Kultur | 2027年(公式日程未発表) | https://lodzwielukultur.pl/en/ |
| 2027年FIVB男子バレーボール世界選手権 | 2027年9月10~26日 | https://www.pzps.pl/pl |
| 第6回 Great September(予定) | 2027年(公式日程未発表) | https://greatseptember.pl/ |